大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和60年(わ)387号 判決 1987年1月22日

本店所在地

新潟県西蒲原郡黒崎町大字鳥原七九七番地

和泉開発有限会社

右代表者代表取締役 山本博

本籍

新潟県西蒲原郡黒崎町大字鳥原七九七番地

住居

右同

会社役員

山本博

昭和七年一月二六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官古崎克美、同松本正則及び弁護人鈴木勝紀(主任)、同村山六郎、同丸物彰各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人和泉開発有限会社を罰金六〇〇〇万円に、被告人山本博を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人山本博に対し、未決勾留日数中一〇〇日をその刑に算入する。

控訴費用のうち、証人阿部勇、同竹内シズエ、同前田英治及び同鷲尾惣治に支給した分はこれを被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人和泉開発有限会社(以下、被告会社という。)は、肩書地に本店を置き、不動産の売買、仲介等を目的とする有限会社であり、被告人山本博(以下、被告人山本という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山本は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外し、仕入れ及び造成工事費を架空ないし水増計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三三一万四七六円であったのにかかわらず、同五七年三月二日、同県同郡巻町大字巻四二六五番地所在の所轄巻税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七一三万七八二〇円で、これに対する法人税額が二一四万三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五七五二万九八〇〇円と右申告税額との差額五五三八万九五〇〇円を免れ

第二  昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二二六万八七六九円であったのにかかわらず、同五八年三月一日、前記巻税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七六五万四〇四〇円で、これに対する法人税額が二二九万四四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五五九八万四〇〇〇円と右申告税額との差額五三六八万九六〇〇円を免れ

第三  昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二九三一万八二三円であったのにかかわらず、同五九年三月一日、前記巻税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七五九万一一八二円で、これに対する法人税額が四〇〇万三二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七五七五万七〇〇円と右申告税額との差額七一七四万七五〇〇円を免れ

第四  昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額か一億一五七九万一三〇四円であったのにかかわらず、同六〇年三月一日、前記巻税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四八八八万八三三四円で、これに対する法人税額が一九九九万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六一九四万六五〇〇円と右申告税額との差額四一九五万四二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告会社代表者兼被告人山本博の当公判廷における供述

一  大蔵事務官作成の昭和六〇年四月一二日付報告書

一  登記官認証の登記簿謄本

判示第一ないし第三の各事実について

一  第三回、第七回及び第八回公判調書中の被告会社代表者兼被告人山本博の各供述部分

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年九月二八日付、同月三〇日付、同年一〇月二日付(二通)、同月四日付(二)、同月五日付(二)、同月六日付、同月八日付(二)、同月一二日付(一)及び同月一四日付各供述調書

一  被告人山本に対する大蔵事務官の同五九年六月一四日付、同月一五日付、同月一六日付、同月一九日付、同月二〇日付、同月二一日付、同月二二日付、同月二八日付、同年八月三日付、同年九月一三日付、同年一一月一四日付、同月二一日付、同月二九日付、同年一二月一一日付、同月一二日付、同月一七日付、同月一八日付、同月一九日付、同六〇年一月一六日付(三)、同月一七日付(四通)、同月一八日付(一)ないし(三)、同月一九日付(二)、同月二二日付、同月二三日付(一)、(二)、同月二五日付(二)、同年二月一五日付(一)、同月二六日付、同年六月一三日付、同月一四日付、同年七月一七日付(二)及び同月一八日付各質問てん末書

一  被告会社代表者山本博作成の上申書及び答申書(二通)

一  徳長健次(同年六月二五日付)及び山本令子(同月二九日付)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書(同年二月二日付及び同年一〇月一四日付)、仕入高調査書(同年二月七日付、同年一〇月一三日付、同六一年六月三日付及び同年一〇月一七日付)、負担金調査書(同六〇年二月八日付及び同年一〇月一三日付)、礼金調査書(同年一月二九日付、同年二月八日付、同年一〇月一三日付及び同月一四日付)、脱税謝礼勘定調査書、工事費調査書(同年二月六日付及び同年一〇月一三日付)、受取利息調査書(同年一月二八日付及び同年一〇月一三日付)、未納源泉税調査書(二通)、仮払源泉税調査書、現金預金調査書(二通)、期首商品棚卸高調査書(同年二月六日付、同年一〇月一四日付及び同六一年一〇月一七日付―昭和五六年度ないし五八年度についてのもの―)、期末商品棚卸高調査書(同六〇年二月六日付、同年一〇月一四日付、同六一年六月三日付及び同年一〇月一七日付昭和五六年度ないし五八年度についてのもの)及び事業税認定損調査書(同六〇年二月八日付、同年一〇月一四日付、同六一年六月三日付及び同年一〇月一七日付―昭和五六年度ないし五八年度についてのもの―)

一  大蔵事務官作成の同六〇年三月二日付及び同年一〇月一四日付各報告書

判示第一及び第二の各事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年一〇月八日付(一)供述調書

一  証人鷲尾惣治の当公判廷における供述

一  鷲尾惣治の検察官に対する供述調書

判示第一及び第三の各事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年一〇月九日付、同月一〇日付(二通)及び同月一一日付各供述調書

一  被告人山本に対する大蔵事務官の同年一月一九日付(一)質問てん末書

一  大蔵事務官作成の家賃収入調査書

判示第一の事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年一〇月三日付供述調書

一  証人小林仁市、同前田英治及び同赤原栄一の当公判廷における各供述

一  第九回公判調書中の証人阿部勇の供述部分

一  阿部勇の検察官に対する供述調書二通

一  大蔵事務官作成の支払利息割引料調査書(同年一月二八日付)及び借入金調査書

一  巻税務署長作成の同五九年一二月二七日付証明書(巻総一―一七二のもの)

一  押収してある総勘定元帳一冊(昭和六〇年押第八二号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年九月二七日付(一)供述調書

一  被告人山本に対する大蔵事務官の同年七月一七日付(一)質問てん末書

一  大蔵事務官作成の貸倒引当金超過額調査書(四通)、売掛金調査書(二通)及び貸付金調査書(二通)

一  大蔵事務官作成の同六一年六月三日付報告書(昭和五七年度及び五八年度分についてのもの)

判示第二の事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年一〇月四日付(一)、(三)、同月八日付(三)、同月一二日付(二)及び同六一年六月三日付各供述調書

一  証人高田敏雄、同穂苅孫一、同斎藤文誉、同竹内シズエ、同白川一男及び同手島祐吉の当公判廷における各供述

一  竹内シズエ(三通)、高橋末江、鈴木勇吉(同六〇年一〇月八日付(一))及び坂田多太志(同年五月三〇日付、同年六月六日付、同月一一日付、同月二〇日付(一)、同年一〇月五日付(二通)及び同月八日付(一))の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の同六一年一〇月一五日付捜査報告書

一  巻税務署長作成の同五九年一二月二七日付証明書(巻総一―一七三のもの)

一  押収してある総勘定元帳一冊(昭和六〇年押第八二号の2)

判示第三の事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六〇年一〇月五日付(一)供述調書

一  被告人山本に対する大蔵事務官の同年一月一六日付(一)、(二)、同月一八日付(四)、同月二三日付(三)、及び同年二月一五日付(二)、(三)各質問てん末書

一  証人山崎武市及び同桜井二葉の当公判廷における各供述

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書、租税公課調査書、雑費調査書及び地代家賃調査書

一  巻税務署長作成の同五九年一二月二七日付証明書(巻総一―一七四のもの)

一  押収してある総勘定元帳一冊(昭和六〇年押第八二号の3)

判示第四の事実について

一  被告人山本の検察官に対する昭和六一年三月一三日付、同月一八日付、同年五月一五日付、同月一九日付、同月二〇日付(二通)、同月二三日付、同月二七日付(二通)、同月二八日付(二通)、同月二九日付、同年六月二日付、同月三日付及び同月五日付各供述調書

一  被告人山本に対する大蔵事務官の同六〇年一二月二三日付、同六一年一月一四日付、同月一八日付、同月二一日付(三通)、同月二二日付(二通)、同月二五日付、同月二七日付、同月二八日付、同月二九日付、同月三〇日付(二通)、同年二月五日付(二通)及び同月六日付各質問てん末書

一  証人滝本栄治の当公判廷における供述

一  徳長健次(同年五月七日、同月九日付及び同月一二日付)、大竹勇、樋口和子、田辺藤衛、上田与次、高野徳衛及び堀内公の検察官に対する各供述調書

一  高野徳衛に対する大蔵事務官の同年一月三〇日付質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書(同年二月一四日付、同年六月三日付)、仕入高調査書(同年二月一三日付及び同年六月三日付)、負担金調査書(同年二月一二日付及び同年六月三日付)、工事費調査書(同年二月一三日付)、受取利息調査書(同日付)、礼金調査書(同月一二日付)、支払利息割引料調査書(同月一三日付)、商品製品期首在高調査書、期首商品棚卸高調査書(同年六月三日付及び同年一〇月一七日付―昭和五九年度分についてのもの―)、商品製品期末在高調査書、期末商品棚卸高調査書(同日付―昭和五九年度分についてのもの―)、外注費調査書及び事業税認定損調査書(同年二月一四日付及び同年一〇月一七日付―昭和五九年度分についてのもの―)

一  大蔵事務官作成の同年五月二八日付、同年六月三日付(昭和五九年度分についてのもの)及び同年一〇月一七日付各報告書

一  仮執行宣言付支払命令正本(謄本)

一  新潟地方裁判所執行官作成の差押不能調書(謄本)

一  巻税務署長認証の法人税確定申告書(副本)謄本

(弁護人の主張に対する判断等)

弁護人は、検察官主張の被告会社のほ脱所得額を争い、その理由として多岐に亘る主張をしているので、以下において、これに対する当裁判所の判断を示し、判示各事実認定の理由を説明することとする。

一  不動産取得に関する簿外支出、いわゆる裏金の支払いについて(昭和五六年度ないし昭和五八年度分に関するもの)

1  前田藤作に対する一五〇〇万円

弁護人は、「被告会社は、前田藤作に対し、新潟市所在の土地売買につき、昭和五六年四月から同五八年五月までの間四回に亘って合計一五〇〇万円の裏金を支払っているところ、売買契約は昭和五五年一月になされてはいるものの、右売買契約に効力が完全に生ずるためには国土法や農地法等に規定されている諸手続をなし、種々の許認可を受けなければならなかったため、裏金は右各許認可がおりた後に支払うとの約束がなされていて、これが実行されたものであるから、右裏金の支出は右条件が成就した昭和五六年度以降の経費として認められるべきである。」旨主張する。

しかし、前田藤作の長男で本件契約に実質的に関与していた前田英治は、裏金の支払いにつき右主張の如き許認可等取得の条件が付されていたというようなことはない旨証言しているうえ、前掲関係証拠によって認められる裏金の支払い状況(昭和五六年四月に五〇〇万円、同五七年五月中に二回に分けて合計五〇〇万円、同五八年五月に五〇〇万円)や右一五〇〇万円という額決定の経緯(前田藤作が被告会社に売渡した土地とその代償として取得した本件土地との価格差を調整する趣旨のもの)などを併せ考慮すると、裏金の支払いが種々の許認可等の取得を停止条件としているものでなかったことは明らかであって、この点に関する被告人山本の公判段階の供述はにわかに措信し難いところである。そうすると、本件取引が昭和五五年一月に行われ、この時点で裏金一五〇〇万円の支払いが確定していた以上、いわゆる「発生主義」に従い昭和五六年以降に支払われた一五〇〇万円の裏金を含めた仕入価額の総額が昭和五五年度の支出に帰属すべきものである(なお、弁護人は、右一五〇〇万円を昭和五五年度の経費とみると、同年度に欠損が生じ、これが次年度に繰り越されることも考えられるとしているが、右一五〇〇万円を経費に算入してみても昭和五五年度に欠損を生じないことは関係証拠に照らし明らかである。)。

2  阿部勇に対する三五〇万円

弁護人は、「被告会社は、阿部勇に対し、黒崎町所在の土地売買につき、昭和五七年三月一二日に三五〇万円の裏金を支払っており、これは昭和五七年度の経費として認められるべきである。」旨主張する。

そこで、検討するに、なるほど、阿部勇は、証人として、被告人山本から裏金として三五〇万円を受け取り、これを農舎の改修や農機具の購入等に充てたように思う旨供述し、昭和六一年の段階で、右三五〇万円につき昭和五七年度分の所得の修正申告をなしているうえ、同人の作成にかかる金額三五〇万円の領収証も存在するのであるが、しかし、右阿部の公判廷における供述は、尋問者の変わる毎に供述内容が動揺しているほか、領収証の作成状況についても、古い領収証が存在していてこれを書き替えたとしながら、その古い領収証を見て書いたのかどうかの点やその後の古い領収証の行方等について甚だあいまいな供述に終始していて、それ自体信用性が乏しいものであるうえ、右阿部は、昭和六一年四月七日検察官に対し、被告会社から裏金として三五〇万円をもらったことはなく、昭和六一年二月ころ、被告人山本から「三五〇万円の現金を昭和五七年三月に受け取ったことにしてくれないか。」、「迷惑はかけないから修正申告をしてくれないか。」などと頼まれたため、内容虚偽の領収証を作成したうえ、修正申告を行ったものであり、今までは被告人山本を裏切るのがいやだったので取調べに対し三五〇万円もらっていたなどと嘘を述べていた旨具体的かつ明確に供述し、更に、同年五月三〇日の検察官の取調べの際も再度明確に裏金授領の事実を否定している情況であって、これらの検察官に対する供述内容と対比するとき、同人の公判廷における供述は到底措信できないものというほかなく(この裏金支出に関する被告人山本の公判段階における供述は、内容自体に不自然な点が多く、措信できない。)、被告会社から阿部への三五〇万円の裏金支払いはなかったものと認めるのが相当である。

3  鷲尾惣治に対する三〇〇万円

弁護人は、「被告会社は、鷲尾惣治に対し、黒崎町所在の土地売買につき昭和五六年一〇月三〇日に三〇〇万円の裏金を支払っており、これは昭和五六年度の経費として認められるべきである。」旨主張する。

そこで、検討するに、なるほど、鷲尾惣治は証人として、被告人山本から領収証記載のとおりの金員を受け取っている旨供述しており、これを裏付けるが如き鷲尾惣治名義、金額三〇〇万円の領収証も存在するのであるが、右鷲尾の証言についてみると、表の金額に対するいわゆる裏金という区別をかたくなに否定し、裏金として三〇〇万円をもらったのかとの質問に対する直接の回答を避け、契約書外の別途の金として本件では七〇〇万円もらっていたなどと他の裏金と混同しているような供述をしていて、それ自体たやすく信を措き難いものであるうえ、右領収証も、その記載によると、昭和五六年度分として、いわゆる表の取引金額と同額の一八五万四〇〇〇円が裏金として支払われ、しかも、同年一〇月三〇日の時点で、これに加えて翌五七年度分の取引に係る裏金として一一四万六〇〇〇円が支払われてしまった、ということになるのであって、あまりに不自然であり、鷲尾の証言中この点に関する説明には納得できるものがない。しかも、鷲尾は、昭和六一年五月二日には自ら進んで検察庁に出頭して、「本件取引の対象となった土地はいずれも反当り六〇〇万円で被告会社に売渡したもので取引価格も相場に見合ったものであり、契約書記載以外に裏金などはもらっていない。前に被告会社から裏金をもらった旨供述したのは取調べの前日ころ、被告会社の社員である徳長健次から、金額三〇〇万円の領収証もあることだし、検事には昭和五六年の契約で三〇〇万円の裏金を受け取っていると供述してもらいたい旨の依頼があったので、具体的な記憶はなかったが被告会社との取引で裏金をもらったことが以前あったのであるいはもらったのかも知れないのではないかと思い、半信半疑のまま裏金三〇〇万円をもらった旨供述してしまった。しかし、家に帰って本件取引の事情をよく知っている妻と話し合ってみて本件については裏金をもらっていないことがはっきりした。」旨具体的かつ明確に供述しているのであり、この検察官に対する供述内容の記載に照らせば、鷲尾の証言や領収証の記載はそのままには措信することができず(この裏金支出に関する被告人山本の公判段階における供述は信用性が乏しい。)、被告会社から鷲尾への三〇〇万円の裏金支払いはなかったものと認めるほかない。

4  竹内竹一郎に対する三〇〇万円

弁護人は、「被告会社は、竹内竹一郎に対し、白根市所在の土地売買につき、すでに検察官が認容済の四〇〇万円(昭和五七年四月六日支払い)のほか、同五六年一一月二一日に二三〇万円、翌五七年四月中旬ころに七〇万円の合計三〇〇万円の裏金を支払っているから、これらは昭和五六及び五七年度の経費として認められるべきである。」旨主張する。

しかし、本件取引に関与していた竹内シズエは、当公判廷において、右主張の如き裏金の受領を明確に否定する証言をなし、検察官に対しては、「被告会社からは四〇〇万円しか裏金をもらっていない。昭和六〇年六月九日ころ、被告人山本から呼び出しを受け、実際の裏金は四〇〇万円だけだったが、検事には私から七〇〇万円もらったというように供述してくれないかなどと執ように頼まれた。」旨供述しているものであって(同人の昭和六〇年一〇月一〇日付供述調書等参照。)、右六月九日の状況は本件取引にダミーとして介在した桜多興産社長の坂田多太志の検察官に対する供述(昭和六〇年一〇月五日付(一)及び同月八日付(一)各供述調書等参照。)によっても裏付けられているところである。なるほど、弁護人指摘のとおり、本件では、昭和五六年一一月二一日付の竹内竹一郎名義金額二三〇万円の領収証が存在するけれども、前掲関係証拠によれば、本件売買契約が成立したのは昭和五七年一月一一日であり、本件土地売買の話が出て被告会社と竹内竹一郎、同シズエとが具体的交渉を始めるようになったのは昭和五六年一二月ないし翌五七年一月初旬ころであったと認められるから、右領収証に記載された昭和五六年一一月の段階で裏金が支払われるのは不自然であって(いわゆる表の代金は昭和五七年一月以降に支払われている。)、これをそのままに措信することはできないところであり(この裏金支払いに関する被告人山本の公判段階における供述には信を措き難い。)、結局、被告会社から竹内竹一郎に支払われた裏金はすでに認容済の四〇〇万円に止まり、このほかにはなかったものと認められる。

5  株式会社平興産に対する一八〇〇万円

弁護人は、「被告会社は、株式会社平興産(以下、平興産という。)に対し、白根市所在の土地売買につき、昭和五七年一〇月ころ一八〇〇万円の裏金を支払っており、これは昭和五七年度の経費として認められるべきである。」旨主張する。

よって、検討するに、なるほど、本件に関しては、検察官指摘のように、裏金の支払いを窺わせる領収証が一切存在しないうえ、平興産の代表取締役斎藤文誉及び同会社取締役事業部長手島祐吉はそれぞれ証人として一八〇〇万円の裏金受取りの事実を否定する供述をなしているのである。しかし、他面において、被告人は公判廷で、「裏金を要求したのは平興産の側であり、本件土地について坪単価は六万二〇〇〇円ということは決まったが、切りのいいところということで正規の契約上の金額は五万円とし、一万二〇〇〇円を裏金として支払うということになり、昭和五七年一〇月に被告会社の事務所にやってきた斎藤に現金で一八〇〇万円手渡した。領収証を要求したが、裏金だから勘弁してくれと言われたので結局もらわなかった。昭和六一年一月二六日午後七時ころ斎藤を訪ねて裏金の事実を表に出すことの了解を求めたところ、最初のうちはこれを渋っていたが、職員が横領した分の穴埋めに使ったことにするから表に出してもよい、として了解が得られた。ところが、翌日午前九時ころ斎藤から電話で呼び出しを受け、行ってみると、同人から、若い者と相談したら裏金の件は表に出さない方がいいと言われたので昨日の話はなかったことにしてほしい旨告げられた。」などと、他の裏金支払いの場合と対比しても格段に具体的かつ詳細な供述をなしていて内容的に不自然・不合理な点も見当らないうえ、これが他の多くの取引関係者の場合と異り、同業者のいわゆる大手に属する平興産に係るものであることや平興産と被告会社との間では翌年にも本件土地に隣接する土地(約七六五坪)の取引がなされているところ、このときの価格は坪当り六万二〇〇〇円であり、本件土地の場合と格別条件が異なるというものではなく、むしろ土地の形状や面積などからみると本件土地の方か高価とみられなくもないから、その間の地価の上昇を考慮しても坪当り一万二〇〇〇円もの差が生ずることはいささか不自然で、むしろ実際の坪当りの取引価額は同一である方が自然ではあること等の事情を併せ考えると、この裏金支払いに関する被告人山本の公判段階の供述の信用性はたやすく否定できないものと認められるのである。前記斎藤、手島の供述は、被告人山本の右供述内容と対比すると、あいまいな部分や不自然な部分がみられ、これを全面的に措信して、被告人山本の供述を排斥するに十分なものとはいい難く、他にこの点を左右するに足る証拠も見当らない。そこで、「疑わしきは被告人側の利益に」の原則に従って一八〇〇万円の裏金支払いの事実はこれを認めることとする。

二  下村武雄に対する貸金残四〇〇〇万円の貸倒損金算入について

弁護人は、「被告会社は下村武雄に対し、昭和五八年度中に合計金四五〇〇万円を貸付けたが、そのうち四〇〇〇万円については、下村の経営する会社が同五九年一月ころ事実上倒産してしまったため客観的には同年中に回収不能の状態になっていたものであるから、昭和五九年度の貸倒損金に算入されるべきである。」旨主張する。

よって、検討するに、法人税法上貸金等について貸倒れとして当該事業年度の所得の計算上損金に算入することが認められるためには、当該貸金等の回収の見込みがないとして当該債務者に対し債務の免除をなしたようなとき、あるいは当該債権の回収不能が客観的に明白であるときでなければならないものというべきところ、これが回収不能か否かは、当該債務者の資力はもとより、その信用、事業上の手腕・力量、債権額、債権者の採用した取立の手段方法、これに対する債務者の態度、債権者の当該債権に対する評価等諸般の事情に照らして総合的に判断すべきものである。

そこで、これを本件についてみてみると、前掲関係証拠によれば、(ア)下村は三共開発なる不動産会社を経営していたところ、昭和五八年七月ないし八月ころ、新潟県長岡市内の山林開発を手掛けるに際し、被告会社から前後四回に亘って合計金四五〇〇万円を返済期限同年一二月の約束で借受けたが、右事業が頓挫してしまい、このため右会社は翌五九年一月ころ事実上倒産してしまったこと、(イ)被告会社は、右倒産後である同年四月ないし五月ころ、二回に亘って下村から同人が貸付先より回収してきた金員で合計五〇〇万円の返済を受けたこと、(ウ)被告人山本は被告会社設立の際に下村から援助を受けるなどしていて同人とは親密な関係にあり、その人物、事業内容、経営手腕についても知悉しており、前記四五〇〇万円の貸付けの際にも、万一会社倒産しても下村個人に対する貸付けにしておけば回収が可能であると判断してこれを行ったものであること、(エ)被告人山本は、同年六月ころ、弁護士に下村に対する右貸付金の回収方を依頼し、昭和五九年度の貸倒れとして右四〇〇〇万円の損金算入の申告は行わなかったこと、(オ)しかし、その後も下村が一向に返済をしなかったため同六〇年九月に右金員についての支払命令を得、翌六一年二月には右支払命令に基づき強制執行に着手したが差押えるべき目的物がないとして差押不能となったため、翌三月に下村に対し、右四〇〇〇万円について債権放棄の意思表示をなしたことが認められるのであって、以上(ア)ないし(オ)の事実関係の下においては、右四〇〇〇万円が昭和五九年度中に前示の如き意味における回収不能に至ったとは到底言えないから、右四〇〇〇万円は同年度における貸倒損金とはなしえないものである(なお、被告人山本が昭和五九年度に右四〇〇〇万円について貸倒れの処理をしなかった理由等として供述するところは、不自然であり、証人滝本栄治の供述等に照らしても到底措信できない。)。

三  受取利息一〇八三万一一〇円ほ脱について

弁護人は、「被告人山本は、借名定期預金等の利息について、国税局の職員から、これらは右預金等を解約した時点で申告すればよいとの指導を受けていたため、これら預金の解約が昭和五九年度の法人税申告後であったことから敢えて昭和五九年度分の所得として計上しなくてもよいと考えたもので脱税の故意を欠き、かつ、解約しなければ正確な利息額も判りにくいのであるから期待可能性が薄く、可罰的違法性もない。」旨主張する。

しかし、昭和五九年度分の受取利息として申告すべきものを申告しなかったことについて、被告人山本に脱税の故意が存するか否かについては、個々の収益損金の個別的認識までは必要でなく、概括的に、所得の一部を不正に隠匿するなどして過少申告をしようという認識がある以上、当該事業年度分の所得税ほ脱の故意が存するものと解すべきところ、被告人山本は、判示のとおり昭和五九年度において、売上げの一部を除外したり、仕入れ及び工事費を架空水増計上するなどの方法で所得を秘匿して税務署長に対し、虚偽過少の法人税確定申告書を提出したものであるから、同被告人に右受取利息を含めた法人税ほ脱の故意が存することは明らかである(因に、個別的に受取利息についての故意の有無を考えてみても、そもそもほ脱所得とされた定期預金等の利息の多くは昭和五九年度中ないし五九年度の法人税申告前に解約ずみの定期預金等の利息であるところ、長年に亘って不動産業その他の経済活動に従事して来た被告人山本が定期預金の利息は解約しなければついてこないとか、解約した年度の所得として申告すればよいと考えていたものとは到底考えられないのであって、その旨の同被告人の弁解は措信し難いものというほかなく、被告人山本に受取利息に関するほ脱の故意が存したことは否定できないところである。)。そして、預金を解約しなくても金融機関に対する照会など利息額を確認する方法は他に種々存するのであるから、本件被告人山本の所為が期待可能性や可罰的違法性を欠くものではないことは論を俟たない。

四  架空・水増工事費について

1  高野工務店関係

弁護人は、「被告会社と無関係の上田工務店に対する一六一〇万円の工事費支払いは架空であるが、現実にはこれに見合う金額が高野工務店に対し借入金の金利として支払われているものであるから、支出の裏付資料に誤りがあるにすぎず、検察官が架空工事費全額を被告会社の脱税行為の中に含めて処理しているのは当を得ない。」旨主張する。

しかし、上田工務店に係る架空工事費の計上がほ脱行為にあたることはいうまでもないところである。もっとも、検察官は上田工務店への工事費の支払いを否認してこれをほ脱所得の中に含める一方、高野工務店への利息支払いとして一五六〇万円を認容してこれをほ脱所得から控除しているのであるから、結局実質的に問題となるのは一六一〇万円と一五六〇万円との差額五〇万円にすぎないところ、前掲関係証拠によれば、この五〇万円は高野に対する利息支払いとしてではなく、上田工務店に対する架空領収証作成の謝礼として支払われたものと認られるのであって、このような支出はいわば脱税協力金とでもいうものであり、被告会社の事業の遂行上「通常かつ必要な経費(収益を得るために必要な支出)」とは到底いい得ないものであるから、所得の計算上損金には算入されないものである。

2  大竹工務店関係

弁護人は、「大竹工務店に係る架空工事費七〇〇万円に関し、架空領収証を作成してもらった見返りに、同工務店からもらう約束になっていた仲介手数料一五〇万円の請求を放棄したものであるから、七〇〇万円全額をほ脱の対象とすべきものではなく、少なくとも右一五〇万円については正当な支出として経費と認められるべきである。」旨主張する。

しかし、関係証拠を検討しても、被告人山本が大竹工務店の経営者である大竹勇から七〇〇万円の架空領収証を作成してもらった際、これの見返りとして仲介手数料一五〇万円の請求を放棄したというような情況は全く窺われないのであって、そうであれば弁護人の主張は前提を欠くものというほかない(仮に、弁護人主張の事実が存したとしても、これによる損失一五〇万円が認容されるためには、その前提として被告会社において未収仲介手数料一五〇万円の収益計上を行っていなけばならないところ、本件においてはこれがなされていないのであるから、この点においても弁護人の主張は失当である。)。

3  堀内組関係

弁護人は、「工事費の水増領収証を作成してもらった見返りとして、被告会社は堀内組に一〇〇万円を貸付けているが、右一〇〇万円は将来回収不能になる可能性が大きいものであるから、これは損金に算入されるべきである。」旨主張している。

しかし、前掲関係証拠によれば、被告会社は、昭和五九年一二月一五日付で四九〇万円の工事費の架空領収証を作成してもらった謝礼として堀内公に一〇〇万円を支払ったものと認められるのであって、そうであれば、これは脱税のために支出した費用であるから前記1において説示したとおり損金には算入されないものである(仮に、弁護人主張のように水増領収証の見返りとして一〇〇万円を貸付けたものとしても、右貸付金が回収不能の状態になっていないことは明らかであるから、貸倒れの問題は生じないものである。)。

4  樋口組関係

弁護人は、「被告会社が工事費の架空水増領収証七〇〇万円を用いて経費の水増計上をしたことはまちがいないが、そのうち二〇〇万円については下請調整金として実際に支出したものであるから、これは正当な経費として扱われるべきであり、結局、ほ脱行為の対象は五〇〇万円の範囲内に止まる。」旨主張する。

しかし、前掲関係証拠によれば、被告会社は、昭和五九年一一月ころ、渡辺農産に宅地造成工事を発注するに際し、中間にダミーとして樋口組を介在させ、形式的には樋口組に一五〇〇万円で工事を発注したことにして一旦は樋口組に一五〇〇万円の支払いをし、その旨の領収証を作成してもらったものの、同年中に樋口組から実質的な発注先である渡辺農産への支払い七〇〇万円と樋口組に対する中間管理費なる一〇〇万円を差し引いた七〇〇万円の返還を受けており、結局七〇〇万円水増した領収証を作成してもらったものであり、このようなからくりに全面的に協力してくれた樋口組の従業員である田辺藤衛に対し謝礼として二〇〇万円を与えたものであると認められるのであって、そうであれば、弁護人主張の下請調整金なる二〇〇万円は右のとおり被告会社の脱税工作に協力してくれたことに対する謝礼として田辺に支払われたものであるから、前記1で説示したとおり損金には算入されないものである。

五  結論

以上によれば、弁護人の主張は平興産に対する裏金一八〇〇万円の点については理由があるが、その余の点はいずれも理由がなく失当というべきである。

なお、弁護人が第六回公判期日以降主張している昭和五六ないし五八年度の薄外経費の支出、いわゆる裏金の支出(関係取引先は当初一三名、のちに一名分を撤回)のうち、検察官においてその後これを認容し、訴因の縮小的変更に至った分(関係取引先七名)については、関係証拠を取り調べた結果、裏金支出が明白とまでいえないものも存するけれども右支出を否定するに十分ではないので、結局、これを認容した検察官の措置は相当と判断される。

そこで、本件各公訴事実(昭和六一年十一〇月一五日付訴因変更請求書により変更されたもの)のうち、昭和五六年及び五九年度分については、判示第一及び第四のとおり、検察官に主張と同一の事実を認定すると共に、昭和五七年度については、前示平興産分の一八〇〇万円の仕入高増加に伴い以下のような修正を行い、同五八年度についてもこれに伴う調整を行って、判示第二及び第三のとおり認定する(各年度の実際所得金額の算定については、別紙(一)ないし(四)の各1の修正損益計算書記載のとおりであり、税額の算定については、別紙(一)ないし(四)の各2の脱税額計算書記載のとおりである。)。すなわち、昭和五七年度分については仕入高が検察官主張額より一八〇〇万円増加するから、別紙(二)の1の修正損益計算書のとおり、支出の部の仕入高に関する差引修正金額が一一億七三八一万九〇〇円に増加する一方、当期利益金額が一億二二六万八七六九円に減少することとなり、右課税所得金額の減少とともに、課税土地譲渡利益金額も六九九六万六〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)に減少するため(右売上原価一八〇〇万円の増加とこれに伴う支払利息九万円――簡便法による年六パーセントの法定率に基づき算出――及び当期分の一般管理費一一万八五二九円――実額法に基づき算出――の各増加による課税土地譲渡利益金額の減少)、別紙(二)の2の脱税額計算書のとおり差引法人税額は五五九八万四〇〇〇円となり、結局、同年度の脱税額は五三六八万九六〇〇円となる。そして、昭和五七年度の課税所得金額が減少したことにより、昭和五八年度の当期未納事業税額(いわゆる事業税認定損)が二一六万円減少することとなり(一八〇〇万円に法定税率一二パーセントを適用して算出)、当該年度の課税所得金額の増加をもたらすこととなるが、この点は訴因による所得額の範囲を越えることのないよう配慮すべきであるから、別紙(三)の1修正損益計算書のとおり調整することとしたものである。

(法令の適用)

被告会社の判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人山本の判示各所為はいずれも同法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告会社については、情状に鑑みいずれも同法一五九条二項を適用し、被告人山本については、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は被告人両名につき刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により免れた法人税の額を合算した金額の範囲内において罰金六〇〇〇万円に、被告人山本については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六月にそれぞれ処し、被告人山本に対しては同法二一条を適用して未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入することとし、訴訟費用のうち、証人阿部勇、同竹内シズエ、同前田英治及び同鷲尾惣治に支給した分は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、これを被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人山本が、不動産取引を目的として設立した被告会社において、昭和五六年度以降四事業年度に亘り連続して法人税をほ脱したという法人税法違反の事案であって、その結果免れた法人税の額は、合計二億二二七八万八〇〇円と極めて多大であり、正規の税額に対するほ脱税額の割合も四事業年度の通算で約八八・六八パーセント(昭和五六年度が約九六・二七パーセント、同五七年度が約九五・九〇パーセント、同五八年度が約九四・七一パーセント、同五九年度ですら約六七・七一パーセント)の高率に達している。

被告人山本は、その動機について、以前経営していた山興電機株式会社が倒産したときに負債で苦しんだことや自己に子供がいなかったことから老後のためにも資産を蓄える必要があったなどと述べているが、もとより本件の如き脱税の動機としてとくに酌むべきものとは認められない。そして、ほ脱行為の態様は、真実の仕入先と被告会社との間にダミーを介在させるなどの方法による仕入高の過大計上、真実の売上先と被告会社との間にダミーを介在させるなどの方法による売上高の除外のほか、仲介手数料収入、ガス・水道設備工事費負担金収入、家賃収入、雑収入及び受取利息等の除外、支払仲介手数料、宅地造成工事費、外注費等の架空ないし水増計上など多種多様で計画的にして大胆かつ巧妙であり、極めて悪質なものといわざるを得ず、とりわけ、被告人山本は、昭和五六年度ないし五八年度を対象とする国税局の査察調査を受けた後も、従来よりある程度多く申告してさえおけば二度続けて査察調査を受けることはないであろうなどという甚だ不遜な考えから、以前とほぼ同様の手段・方法による脱税工作を継続して昭和五九年度の法人税ほ脱に及んでいるのであって、同被告人の規範意識の希薄さは強く非難されなければならない。このような本件各犯行の動機、態様、結果等にかんがみると、被告人山本及び被告会社の刑事責任は到底軽視することができないところであって、被告人山本が公判廷において反省の態度を示し、再犯なきを誓っていることや被告会社においても既に本件各事業年度につき修正申告をなし、国税、地方税を通じて納税を了していること、顧問税理士を替えてその適切な助言・指導を受けるようにする等経理態勢の改善をはかっていること、被告会社はもとより、被告人山本にも同種の前科・前歴はなく、これまで土地を無償で提供する等して地域社会の発展にそれなりの貢献をしていること、その他被告人山本の健康状態や家庭状況等弁護人指摘の首肯しうる諸点を被告人らのために十分考慮してみても、被告会社に対する罰金六〇〇〇万円及び被告人山本に対する懲役一年六月の各実刑はまことに已むを得ないものと思料される。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堀内信明 裁判官 奥林潔 裁判官 志田博文)

修正損益計算書

(一)の1

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

(一)の2

<省略>

修正損益計算書

(二)の1

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

(二)の2

<省略>

修正損益計算書

(三)の1

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

<省略>

(三)の2

<省略>

修正損益計算書

(四)の1

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

(四)の2

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例